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私のジャズ [3] コルトレーンの同世代ジャズ (2)Mal Waldron

[3] コルトレーンの同世代ジャズ


(2) マル・ウォルドロン〜私の名盤


 マル・ウォルドロン(Mal Waldron/1925.8. - 2002.12./piano/ニューヨーク出身)は、私のお気に入りジャズピアニストとして必須の一人。時代・社会と自身の人生の変遷・変転を経る中で、彼の演奏内容自体も微妙に変化・変容しているとは言え、その底流に一環して奏でられるアフロ・アメリカンとしてのネイティブなジャズピアノの音律は、いつ聴いてもとても魅力的だ。


 初期のアルバム「Mal 4」(1958.9.26/Feat. Addison Farmer:b, Kenny Dennis:ds)なども彼らしい演奏が存分に聴けて私好みの名盤なのだが、マル・ウォルドロンらしさ全開と言えるアルバムとして、「All Alone 」(1966.3.1/Solo)と「Free At Last」(1969.11.24/Feat. Isla Eckinger:b, Clarence Becton:ds)の2枚が私の名盤。


 そして、『私のジャズ』の一人でもあるスティーブ・レイシー(Steve Lacy/1934.7. - 2004.6./soprano-sax/ニューヨーク出身)との共演・共作の「One-upmanship」(1977.2.12/Feat. Manfred Schoof:cornet, Jimmy Woode:b, Makaya Ntshoko:ds)[補1] と「At the Bimhuis 1982」(1982.12.10/Duo Live)[補2] の2枚も、スティーブ・レイシーが奏でるフリーキーで美しいソプラノサックスの音色に呼応して、マル・ウォルドロンのネイティブなピアノ演奏にも繊細な味わいが加わる印象深い名盤である。


[補1] 私はいつもならば、〝2管〟編成からなるカルテット演奏はどうにも相性が合わないのだが、このアルバムでマンフレート・ショーフ(Manfred Schoof/1936.4. - /trumpet/ドイツ・マクデブルク出身)が吹くコルネットは、スティーブ・レイシーのソプラノサックスと見事に共鳴する名演である。

[補2] このアルバム4曲目、ジャズのスタンダードナンバーとなっているセロニアス・モンク作曲〈Round Midnight〉でのマル・ウォルドロンとスティーブ・レイシーのデュオは、心に染み透るような美しい演奏である。


 また、かつてマル・ウォルドロンが伴奏を務めたビリー・ホリデー(Billie Holiday/1915.4. - 1959.7./vocal/メリーランド出身)へのトリビュート的なアルバムの「And Alone」(1985.9.1&2/Solo)と「No More Tears (For Lady Day)」(1988.11.1~3/Feat. Paulo Cardoso:b, John Betsch:ds)、そして、『私のジャズ』の一人でもあるアーチー・シェップ(Archie Shepp/1937.5.- /sax etc./フロリダ出身)との共演・共作の「Left Alone Revisited」(2002.2.7&8/Duo)の3枚も、晩年に差しかかったマル・ウォルドロンの穏やかな境地も垣間見える私の名盤である。


 私にとっても、マル・ウォルドロンはジャズピアニストとしての生涯を全うした稀有でとても魅力的な存在である。彼の残してくれたアルバムの作り方(コンセプト)には、確かに〝Aloneシリーズ〟のアルバムなど、売れ線を意識した側面もあるように思われる。

 しかし、マル・ウォルドロンは、その商業的要求と上手に折り合いをつけながら、決して媚び諂うことなく、生涯を通して自分の音楽としてのジャズを見失わなかったように想う。


 マル・ウォルドロンが歩んだ人生そのものが幸福で満たされたものであったかどうかは、私には不明であり深く詮索するつもりもないのだが、ジャズピアニストとして十分に祝福され満たされた人生だったように想う。そして、危機的状況を呈する今の時代にあって、そうした彼のジャズ演奏を聴けることが感慨深い……。



〜続く〜


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