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GAIA SYMPHONY No.8〜“3.11” からの深い呼び声


 1992年に発表されたNo.1に始まる龍村仁監督の『GAIA SYMPHONY(地球交響曲)』は、そのNo.8が今年(2015年)2月に完成した。これで、No,1からNo.8までの8つの連続する映画作品として、宇宙・自然・生命の「霊性」と「結び」について、ここ10数年にわたって強く深い詩的メッセージを私に伝えてくれたことになる。  映像・音・言葉の三者によるトータルな表現と感受のあり方が求められる映画やTVドラマは、私の感覚には合わぬことが多いため少々疎遠にしている。そんな私が、龍村仁監督の『GAIA SYMPHONY』という、魅力溢れる映画作品に出会ったのは、「星野道夫(写真家)」「フリーマン・ダイソン(宇宙物理学者)」「ナイノア・トンプソン(外洋カヌー航海者)」を取りあげたNo.3(1997年)だったと記憶している。ここで紹介されている「星野道夫」という存在=生き方にも大きく心揺さぶられつつ、龍村仁監督が伝えてくる魂のメッセージに心うたれた。その後、初回のNo.1から今回のNo,8まで、「魂の友」である龍村仁監督へ敬愛と感謝を寄せながら、パートナーと共に上映会に参加し続けている。  No.1(1992年)のラインホルト・メスナー(登山家)、No.2(1995年)の佐藤初音とダライ・ラマ14世、No.3(1997年)の星野道夫、No4(2001年)の名嘉睦念(木版画家)、No.5(2004年)のアーヴィン・ラズロ(哲学者)、No.6(2006年)のラヴィ・シャンカールと娘のアヌーシュカ・シャンカール(シタール奏者)、No.7(2010年)のアンドルー・ワイル(統合医療医学者)らの叡智や慈愛に満ちた人々・・それぞれの作品で紹介されている人々の存在や生き方を通して龍村仁監督が伝えてくれるメッセージは、今年3月に観させてもらったNo.8も含め、その時々の私自身が抱えている霊的な課題と不思議なくらい真っ直ぐに響き合う。  No.8で登場する人々は、〈樹の精霊に出会う〉として梅若玄祥(能楽師)・柿坂神酒之祐(天河大辨財天社宮司)・見市泰男(能面打)、〈樹の精霊の声を聴く〉として中澤きみ子(ヴァイオリニスト)と中澤宗幸(ヴァイオリン製作者)の夫妻、〈心に樹を植える〉として畠山重篤(牡蠣養殖業)と畠山信(NPO「森は海の恋人」副理事長)の親子。そして、本作品全体のテーマとして、《畏れと美と知恵と勇気と》が掲げられている。  この作品のいくつもの印象深い場面から、あえて3つほど選んで紹介する。ひとつは、中澤きみ子さんと父親とヴァイオリン・・戦争から帰ってきた父親となる人が、もう歩けない状態で上田の坂道をあがったところで、フッとヴァイオリンの音を聞いたとたんに涙が溢れ出て、もし結婚して子どもが生まれたら、絶対にこの音色が聞きたい、その子にヴァイオリンを習わせたいと思ったこと。そして、ある晩に「幼稚園は我慢してヴァイオリンを習わせようよう」と語り合う父母の声を耳にした5歳の中澤きみ子さんが、「もしかしたらヴァイオリンが習えるんだ」と嬉しく思ったということ。  2011年3月11日の東日本大震災に襲われた畠山重篤さんと畠山信さん・・津波の間際の時は、本当に生き物がいなくなり、鳥もいなくなって、海は死んだと思った。でも、森の木々がもたらす養分が川に流れて海を再生し、牡蠣が食べきれないくらいプランクトンが繁殖してきて、「森は海の恋人」と語る畠山重篤さん。操舵する漁船が津波に襲われて、たまたま今回は生き残れたけれど、自分の目線で斜め下にあった灯台が海の底にどんどん吸い込まれていく中、「まったく違う別の星にいるんじゃないか」という感覚で五感が全開状態になったと語る重篤さんの三男・信さん。  樹というのは何百年何千年経っても生きているという想いがあって、外はほとんど使い物にならないように見えても、これは中側の命を保つためのマントのようなもの。マントを脱がすと中から本当にみずみずしく生きている樹が出てくると語る中澤宗幸さん。そして、その中澤宗幸さんが、東日本大震災に襲われ流された木から製作したヴァイオリンによる演奏。  今では復興の道筋が見えてきたとか、原発事故はコントロールされているとか、事実を隠蔽する無責任且つ抑圧的な言説。うわべだけの応援しようとか頑張ろうとか、他人事としての同情心による感傷と憐憫。そんな寒々とした風潮の中、嘆き悲しみ、叫び訴える声さえも奪われて、暗い闇の奥底に沈み込んでしまった多くの人々の命と魂の輝き。こうした想いの中、“3.11” の自然災害としての地震・津波、そして、人災・公害としての福島原発事故について、私自身も語る言葉や行動する勇気を失っていた。  『GAIA SYMPHONY No.8』は、直接的な形として “3.11” について触れることはほとんどない。しかし、この作品に込められたメッセージを通して、私は “3.11” からの深い呼び声を聴いた。自然史と宇宙史の中で、私たちの魂は連なり結ばれていること。その霊性のもと、畏怖とともに叡智が生まれ、星々のごとく輝く美と地球のごとく鼓動する勇気を手にすることができるのだと。

 龍村仁監督、今回もまた、ありがとうございます。

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