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R・シュタイナー『社会問題の核心』[8]〜本来の社会生活としての三分節化

これまで、本著の[まえがきと序論]と[第1章 現代社会の根本問題]について、私なりに注目したシュタイナーの言葉に触れつつ、参考文献等も紹介する形で読み進めてきた。あらためて振り返ると、この[まえがきと序論]と[第1章 現代社会の根本問題]の論述において、シュタイナーの「社会問題」に関する基本的で重要な視点はほぼ示されているようだ。今回の[第2章 生活が求める具体的で必要な試み]以降は、ポイントを絞って読み進めていくことにする。

 [第2章 生活が求める具体的で必要な試み]から-1

《1》本来の社会生活としての三分節化

 シュタイナーによる社会論=「社会有機体三分節化」は、一見、非現実的な抽象的空論として見誤れがちである。しかし、イデオロギー的な幻惑や観念を払拭して洞察するならば、長い歴史社会の実態としては、むしろ本来的に、精神生活と経済生活と政治(国家)生活という三要素は……人々の生活や意識として表面化することはないにしても……歴史社会の底流として生きて働きながら、その有機的な分節化を形成・発展させていることが理解される。

 この「精神生活と経済生活と政治生活」が分節化されることなく、他の要素に埋没し、あるいは、他の要素を統合・吸収するかのような現象としての歴史的事実は、過去・現在にあったし、未来にもあるだろう。しかしそれは、その社会生活において消し去ることのできない底流として「精神生活と経済生活と政治生活」が分節化され、生きて働いている事実を否定する根拠とは成り得ない。

中世ヨーロッパ社会におけるキリスト教会が、「精神生活と経済生活と政治生活」の三要素を統合・吸収するかのような権勢を得ていたことは、当時の社会状況だけに眼を向けば事実であろう。しかし、その後の社会発展を動的な歩みとして見るならば、中世ヨーロッパ社会における「精神生活と経済生活と政治生活」という三要素の有機的・相互的な働きを背景としながら、その後の精神生活内部における宗教改革など、この三要素の権力的統合が変化・破綻していく歴史的過去が見えてくる。

 同様にして、今日の日本における安倍政権が、「精神生活と経済生活と政治生活」の三要素を権力的に統合・吸収するかのような権勢を得てきたことは、近年の社会状況だけに眼を向ければ事実であろう。しかし、歴史社会の進展という動的な視点に立つならば、やはり、三要素の有機的・相互的な働きを背景としながら、つい最近の政治生活内部における内閣支持率の急落など、今日の日本社会における三要素の権力的統合が変化・破綻していく歴史的未来が見えてくる。

 このようにして私は、人々の生活や意識として表面化することはないにしても、「社会有機体三分節化」は常に歴史社会の底流として生きて働く本来的な社会生活のあり方だと考える。こうした私の理解は、本著と共に、『社会の未来(シュタイナー 1919年の講演録)』(高橋巌訳/2009/春秋社刊)における次のようなシュタイナーの言葉を読むことで深められる。

【そこでまず確認しておかなければならないのは、自由な精神生活は、すでにずっと以前から国家生活や経済生活から切り離されて存在していた、ということです。(中略)すでに、新しい技術に基づく経済秩序が分業制度を通して現れてきた頃には、自由な精神活動が、特に、芸術、世界観、宗教信条等の領域で、経済生活や国家生活から独立した、いわば社会生活の行間で自由に営まれるようになりました。】(「精神と法と経済をいかに協調させるか」p133-p134)

 上記の「自由な精神生活は、すでにずっと以前から国家生活や経済生活から切り離されて存在していた」というシュタイナーの言葉は、「社会有機体三分節化」が常に歴史社会の底流として生きて働く本来的な社会生活のあり方であることを示唆している。

本著における次のようなシュタイナーの言葉は、未だ実現されざる理想社会として、「社会有機体三分節化」のあり方を語っているわけではなく、過去・現在・未来の歴史社会に通底する本来的・能動的な力の源泉として、「社会有機体三分節化」が生きて働いている事実を指摘しているのだ。

【経済生活や権利意識と同様に、第三の源泉である人間の個的能力の領域も社会生活の必要不可欠な分野である。(中略)人生の本当の生活基盤は、自分が自分自身の中から引き出す能力の中にある。この能力は、それを経済生活に従わせたり、国家に奉仕させたりしてしまうなら、自由に力を発揮できなくなる。】(「精神生活における自由な働き」p50/p51)

 上記の「人生の本当の生活基盤は、自分が自分自身の中から引き出す能力の中にある。」というシュタイナーの言葉における「人生の本当の生活基盤」とは、常に歴史社会の底流として「社会有機体三分節化」が生きて働く生活の場であり、それ故、「自分が自分自身の中から引き出す能力の中」という精神生活にこそ、「人生の本当の生活基盤」があると言うのである。

〜続く〜

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