ルドルフ・シュタイナー『社会問題の核心』[1]〜精神生活と教育の自由

05.04.2017

  ここ1年ほどかけて、高橋巌先生を囲む月1度開催の読書会で、ルドルフ・シュタイナーの『社会問題の核心(原著: 1919年4月出版)』(高橋巌訳/2010年/春秋社刊)を読み進め、つい最近、ひとまず読書会として『社会問題の核心』を読了した。『社会問題の核心』で示されているようなシュタイナーの“社会”に関する論考をきちんと読み込むのは、私にとってはじめてのことであったが、彼の“霊性”に関する論考と同様、その内容は現代においても(むしろ現代だからこそ)きわめて示唆に富むものであった。


 さらに私にとって、ここで示されているシュタイナーの「社会論」は、人としての“霊性”に通底する社会論として、マルクス主義をはじめとしたドグマ的な社会思想の残滓を見事に一掃することとなった。先の読書会における仲間達との意見交換による成果も踏まえつつ、半年から一年位はかかるかもしれないが、しばらくの間少しずつ、『社会問題の核心』を順に読む進める形でシュタイナーの社会論をめぐる私なりの思いを述べていくことにする。まずは、[まえがきと序論]から「精神生活と教育の自由」について……

 

 [まえがきと序論]から-1

 

《1》「精神生活の自由」〜国家と経済から精神生活を解放する

 

 シュタイナーによる社会論の中心を為す考え方は、端的には「社会有機体三分節化」であると言えよう。そして、その「社会有機体三分節化」を支える根柢にあるのが「精神生活の自由」という考え方である。シュタイナーは次のように述べる。

 

【近代は国家制度と経済力とに高度に依存した精神生活を発達させた。】(「世間の考え方」p-xii)
【われわれの公共生活の混乱は、このような仕方で精神生活が国家と経済とに依存していることによるのだ。(中略)このことを明示するという、今日あまり歓迎されない課題を、本書は引き受けなければならない。そしてこの依存から精神生活を解放することが、極めて緊急な社会問題の一部分を構成していることも明示しなければならない。】(「自立した公共生活を取り戻す」p-xiii)

 

 ここに示されているのは、精神生活は生命的・本質的に自由であるべきだという考え方であり、それは、ハーバート・リードが『アナキズムの哲学』(1968/法政大学出版局刊)において次のように記している……「フリーダムとリバテイー」、「文化と文明」、あるいは、「 共同体と国家」……に繋がるものである。

 

【エンゲルスとマルクスがフリーダムとリバティーを根本的に混同していることも注目されるべきである。彼らがフリーダムによって意味しているものは、政治的な自由、つまり経済環境への人間の関係にすぎない。しかしフリーダムとは生の全過程への人間の関係なのである。】(同上書「実存主義・マルクス主義・アナキズム(1949)」p195)
【フリーダムとリバティー、文化と文明 — このような言葉で、われわれは存在を二つの範疇に、すなわち、有機的な成長と人為的な組織に区別できる。この観点から人間社会を見る場合、相互扶助を不可欠とする人間的必要によって決められた、生物学的なある発達を見分けることができる。このような社会発展の一般的性格をもっともよく示している言葉は共同体である。 だが、人類の階級への分裂を決定したものが、生物学的必要ではなく、政治的必然であったことは、このような社会発展から明瞭である。これらの階級は経済的ないし軍事的であり、その目的は絶対権力の領域の創出である。この領域にわれわれは国民、もっと正確には国家の名を与える。】(同上書「自由の鎖(1946-1952)」p280)

 

 この「フリーダム」=「精神生活の自由」とは、私にとって、ハーバート・リードも指摘するように、ポール・エリュアール(Paul Eluard:1895-1952、フランス)が「Liberté(自由)」[註]の名の下に記す詩編の切なる響きであり、あるいは、リッチー・ヘブンス(Richie Havens:1941-2013、アメリカ)が1969年8月のウッドストック・フェスティバルにおいて、黒人霊歌「Sometimes I feel like a motherless child」を引用して即興的に歌った「Freedom」の熱い響きなのだ。

 

[註]この詩編最終章を以下の通り(安東次男訳)

  Et par le pouvoir d'un mot

  (そしてただ一つの語の力をかりて)

  Je recommence ma vie

  (ぼくはもう一度人生を始める)

  Je suis né pour te connaître

  (ぼくは生れたおまえを知るために)

  Pour te nommer

  (おまえに名づけるために)

  Liberté.

  (自由 と。)

 

 

《2》「教育の自由」〜自由な精神生活を育む土台として

 

 「まえがきと序論」において述べられている主要な論旨は、まずは「精神生活の自由」であるが、さらに、その「精神生活の自由」の土台となる「教育の自由」のあり方と必要性について、シュタイナーは次のように語る。

 

【精神生活はその本質上、社会有機体の中で、完全に独立した分野として形成されねばならない。だからすベての精神生活がそこから発するところの教育制度、学校制度は、教育する人たちの自主管理下に置かれねばならない。国家もしくは経済の分野で働く人が、この管理に介入することがあってはならない。どの教師も、授業のために用いる時間だけでなく、教育分野の管理者としての時間をも持てなければならない。教師は教育と授業に心を使うのと同じように、管理にも心を使うことができなければならない。誰でも、生きた教育実践をしていない人は、教師に指図してはならない。議会もそうしてはならない。】(「自立した公共生活を取り戻す」p-xiv)

 

 ここでは、「精神生活の自由」を育む「教育の自由」について、至極当然の本質的なあり方が述べられている。しかしそれだけに、現代日本における「教育」のあり方が、国家的且つ経済的な支配・統制のもとで、その「自由」が根本から否定され歪められている事実を露にする。

 

 そうした現代日本における国家的な支配・統制は……教育委員会任命制度の導入、学習指導要領法的拘束力の強化、教科書検定制度の強化、小中学校・道徳教育の「特別な教科」化による評価導入 etc.……私が知るだけでも多々ある。経済的な支配・統制を示す最近の典型としては、次のような2016年に経団連が示した「今後の教育改革に関する基本的考え方(2016.4.19)」 が私の眼に留まる。

 

【変化の激しい、将来が展望しにくい状況において経済成長を維持するためには、開かれた質の高い教育や、学び直しによる生涯学習を通じて国民一人ひとりの能力や生産性を高め、産業構造や社会の変化に主体的に対応し、生涯現役で活躍できる人材を育成することが急がれる。そのために、次世代の人材に求められる素質、能力を明らかにし、初等中等教育段階から高等教育まで、一貫したかたちでそれらを育成することが重要である。】(「Ⅱ. 次世代を担う人材に求められる素質、能力 」より抜粋)

 

 この経団連の主張には、〈自由な精神生活を育む人間教育〉を〈経済成長に寄与する人材育成〉へと歪め、本質的な人間性そのものを否定することになんらの躊躇もなく、成長幻想に囚われた“資本”の傲慢と欲望が露である。

 

 さらに、2015年11月にアベノミクスとして発表された次のような 「一億総活躍社会」と称された内容を見ると、近年ますます、国家と経済が一体となって、あらゆる教育の機会に対して支配・統制を押し進めようとしていることが明らかである。

 

【若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した 人も、みんなが包摂され活躍できる社会、それが一億総活躍社会である。すなわち、 一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を揮でき、それぞれが生きがいを感じることができ る社会を創る。そのために、一人ひとりの希望を阻む、あらゆる制約を取り除き、活躍できる環境を整備する。
 こうした取組の中で、国民一人ひとりの安心感が醸成され、将来の見通しが確かになることにより、消費の底上げ、投資の拡大が促され、経済の好循環がより一層強化される。また、個々人の多様な能力が十分に発揮され、多様性が認められる社会を実現していくことにより、新たな着想によるイノベーションの創出を通じた生産性の向上によって経済成長を加速することが期待される。】(「基本的考え方--包摂と多様性がもたらす持続的な成長--」より)

 

 こうした「教育の自由」を真っ向から否定し歪める国家的且つ経済的な支配・統制からは、結局のところ、まっとうな「社会意志」のもとで、未来ある社会生活を築き得る人間は育ちようがない。再度、私たちは、次のような「教育の自由」に係るシュタイナーの言葉を噛み締めたい。

 

【子どもの能力を特定の方向にどこまで導いていくのかを判断することは、自由な精神共同体の中でのみ可能である。そしてそのような判断を正しく下すことも、そのような共同体に支えられているのでなければ不可能である。国家生活、経済生活は、自分の立場からでは精神生活を形成する力をもてない。】(「自立した公共生活を取り戻す」p-xv)

 

 

〜続く〜

 

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